(第一部) あれから数年の月日がたち、2009年となっていた。夢野はいつものように仕事を 続けていたが、この年は、夢野にとっても痛い幕開けとなった。 まず、日本国内で株式運用などで成績を上げていた、仲間の中根の会社が倒産。 夢野もそれは、会員の仲間から知らされたくらいであり、想定外であった。 しかも、計画倒産の疑いが濃厚で、中根は何の説明もなしに表舞台から姿を消した。 夢野は中根にコンタクトを取ろうとしたが、すでに連絡不能状態であった。 2008年後半に発生したリーマンショックにより、ファンドの運用成績が急落。破産。 破産管財人からの連絡では、「破産者の、財産隠蔽に関する情報」を求めていると いう、驚くべき内容の報告もあった。これには、夢野もショックであった。 しかし、これはダブルパンチの片方だけでしかなかったのである。 今度は、会員から三井に対する仕事ぶりに対するクレームが続出。ほとんど全部 の仕事で、仕事を投げ出してしまい、手の打ちようがなかった。 夢野の方で、複数の知人に三井の仕事ぶりに対する評価を聞いたところ、 悪評判ばかりでどうにもならない事が判明した。 誰一人、三井をかばう人間はいなかったのである。 結果として、三井はかつての仲間達から総スカンをくらい、完全な村八分状態と なってしまったのであった。 行き詰った三井は、ついに、「破産」に追い込まれたのである。 (第一部 完) (第二部) 変わって登場したのが、大島竜彦である。夢野との初回商談は、大島の簡単な 身の上話程度であった。実家が造り酒屋で金をたくさん持っていたが、「フットワーク が重すぎる」と、全部売り払った事を夢野に伝えたのである。 大島の現住所は、上野の三畳一間の狭い場所。ただし、それはダミーであった。 ノートパソコンを二十四台所持し、目的に応じて使い分けていると言う。 「先行投資」として、大島の求める条件すべてに適合した夢野は、大島から100万円を タダでもらったのであった。 パソコンや金券購入に使った事を伝えると、 「有効に使ってくれて、こちらもうれしい」 とだけ伝えてきたのである。 (第二部 完) (第三部) 2010年5月、一泊二日の外泊提案を大島から受けた夢野は、金目当ての目的もあり、 大島の沿いに応じ、大宮までキャンピングカーで迎えに来た大島の車に乗り込んだ。 途中の休憩も挟み、東北自動車道から日光道に乗り換え、途中のパーキングエリア から外に出て、日光杉並木近辺まで徒歩で向かった。 大島が杉並木の下を掘ると、金庫が埋まっており、その中には札束がぎっしりと 詰まっていた。 中の現金は香港行きで、金庫だけを車に持ち帰ったのである。 日光道を抜け、いろは坂を上り、明智平まで来て展望台の上まで来たところで、 「今日の目的地のS共和国大使館は、あちらの方向である」 と、大島は指を指したのである。 そして、車に戻り、中禅寺湖近辺に到着。途中で車を停めて、散策しながら、 目的地のS国の大使館に行く事にした。 途中、フランス大使館別荘、べルギー大使館別荘、イギリス大使館別荘などを 通り過ぎ、イタリア大使館の記念公園まで来たところで少し休んだのである。 イタリア大使館別荘記念公園を過ぎれば、間もなく、「日本の法律では、一切、 手を出す事が出来ない」S共和国の大使館別荘である。二人はその中に入って いった。 この大使館の中には、「究極の地下銀行システム」が整っていたのだ。 「大使館の中は、日本の法律が適用出来ない」ため、まさに、「闇送金が、やり放題」 という事になるのである。 その仕組みとは何か?・・・。 S共和国の中には、現地銀行の支店があり、日本と異なり、身分確認なしで、 十万ドルでも百万ドルでも、無制限に送金する事が出来るというのだ。 しかも、外国大使館内であり、「適用する国の法律が違う」ため、日本の政府 や警察でも、どうする事も出来ないという、まさに究極の「地下銀行」システム なのであった。 さらに、お金は毎日、日本国内の警備保障会社が取りに来るため、実質、 「闇送金の運び屋は、日本国内の警備保障会社」という事になり、まさに、100% 完全な地下銀行システムとなっていたのである。 また、この外国大使館の大使も、かなりガメつく、余計な手数料を分捕り、 本国政府に報告することなく、エゲつなく儲けていたのであった。 ネットオークションで、高く売れるからと、大島はS国の民族衣装や工芸品を たくさん購入し、夢野と共にキャンピングカーまで戻ってきた。 その後、隣の半月山の展望台の駐車場のところで、一夜を過ごすこととなる。 栃木県と群馬県の境にある「奥鬼怒」まで出かけ、億単位の金を隠した事を 夢野に伝えた。 「隠す方も命がけなら、回収する方も命がけ。国税当局よ。差し押さえに来るの であれば、標高2030メートルの奥鬼怒まで、差し押さえに来てみよ!」 と意見を述べたのであった。 翌日、大島は夢野を大宮まで送って行ったのである。 (第三部 完) (第四部) 夢野は、大島の経営する新宿のビルに案内を受けた。そのビルは、存在自体が 凶悪そのもので、「犯罪をやりたい人のために建てたビル」であり、取るテナント 料は、相場の十倍。その代わり、部外者の侵入を許さず、無理やり入ろうとすれば、 回転ドアに仕掛けた落とし穴で、「あの世まで落ちる」とか、鉄格子を破らない と、第三者の侵入を許さないとか、複数の仕掛けがなされていたのである。 十二階建てのビルの三階、四階、五階は、振り込め詐欺集団などによって借りら れていた。 その日は簡単な説明で帰宅した夢野であったが、後日、再び訪れた時に、とん でもない事態に巻き込まれたのである。 「優雅な気分で、宿泊する事も出来る」 と大島に言われ、八階のVIPの部屋に泊まる事にした。その翌朝、慌ただしい外部 からの声で夢野は目を覚ましたのである。 飛び込んで来た大島が、「国税当局の強制査察である」 と言った。 「強制調査に入られたら、屋上にあるヘリから、脱出すれば良い」 と豪語していた大島であったが、驚くべき事に、下一階からの調査チームと、屋 上から降りてくる国税当局の人間による「はさみうち」で、このビルの屋上から、 ヘリで逃げる事も出来なかったのだ。 「たぶん前の日に、ヘリか何かで降りて、予定時間と同時に動き出したのでしょう。 ビルの一階からも屋上からも、逃げられないです。ビルの屋上に逃走用のヘリが ある事も見破られていたようです。上空からあらかじめ、ヘリを使ってビルの上の 部分を、観察していたのでしょう。敵もなかなか手強いですね」 このように言う大島に、夢野がどうするのかと聞いたところ、 「一階と屋上を占領したからと言って、自分を観念させられるかと言えば、それは 大間違いだ。 映画のスパイダーマンは、ビルの壁にへばりつく事が出来るが、壁にへばりつい て入口を封鎖しない限り、自分を捕える事は出来ない」 と言い、約二十メートル離れた、隣のビルまで脱出すると言いだした。 地上八階の空中を、自分達だけが安全に移動し、追跡する国税当局の追跡を許 さない、その具体的な方法とは何か!?・・・。 大島は、助走を付け、夢野の寝ていたベッドを踏み台の代わりにして、 「それ!」 というかけ声と共に、いきなり、空中へ飛び出した! 「危ない!」と叫ぶ夢野。ここは、ビルの地上八階に当たる場所なのだ。空中を 飛び出して逃げ出す大島。夢野も否応なく、付き合う事に・・・。 +++ +++ +++ 「いかに国税局の人間でも、スーパーマンと違い、空を飛ぶ事は出来ない」 (この一行のみ、本分より抜粋) +++ +++ +++ ビルの地上八階から「空中歩行」の秘技で、隣のビルまで脱出した夢野と大島。 すぐに屋上まで行き、夢野と大島は、こちら側のビルのオーナーに後始末を任 せ、ヘリで脱出。新宿の空に飛び立ったのである。 ヘリの行き先はお台場の海上十キロ付近。大島の仲間の海運会社のタンカーに、 着陸した。海運会社の仲間達に、 「年貢の納め時には、まだ早すぎるのでは?」 と次々に冷やかしの言葉を浴びせかけられる大島であった。 ここで夢野は、大島の仲間の大山海運の社長の青山和彦と初めて会った。海運 会社とは名ばかりで、本職は闇送金屋であり、新興宗教や、暴力団幹部などとの 付き合いが濃厚な人間であった。 「うちの会社の『本職』は、『闇送金業』である。日本から遠く離れた海上の上で、 外国の船と、闇送金での金の受け渡しを行う。海の上まで国税当局がやってくる事はない」 朝食を取りながらテレビを見ていると、元の大島のいるビルでの「惨事」が、 ニュースで報じられていた。大島は、詳細を夢野に説明してくれた。 「森の中のマスタードガス」と言われる、猛毒キノコのカエンタケを始め、約 十種類の毒キノコを特殊加工で毒性を失わないように粉末化し、それを、国税当 局の職員に、大量にバラ巻いたのだと言う。 カエンタケは、主に関西地域に実在する猛毒キノコで、ベトナム戦争で使われた のと同様の兵器の成分である、トリコテセン系のマイコトキシンを含んでいる。 それをバラまいたのだから、ただですむはずもなかった。 朝からとんだ事件に巻き込まれてしまった夢野であったが、現金ももらう約束を 取りつけ、大宮まで帰宅した。 後日、青山と大島から、別々にたくさんのコミッションをもらったのである。 大島から、ネットオークションでの売買についての打ち合わせをし、そこそこの 売り上げも構築し、夢野の収入も安定化したとみられた時、天変地異に襲われ、 夢野は再び、激流の中に放り出されることとなったのだ。 平成23年3月11日。午後2時46分。東北と関東一帯を中心とした、大規模な地震 が発生。夢野の仲間も、連絡が取れない人間が続出。これにより、夢野は再び、 出口の見えないトンネルに入りこむ事になってしまったのである・・・。 地下銀行 第五章 第四部(完) |